夕陽をはじく、黒。
きれいだな、と単純に思った。
何物にも染まらず、縛られない。その色彩は本当に、彼にふさわしい。
夕暮れ時の学校の屋上。
自分でも気付かないうちに、手を伸ばしていたようだ。
もう少し、という所で案の定、その腕は彼に弾き飛ばされてしまう。
「何するの、殺すよ」
そう言って睨みつけてくる、その双眸も、また黒。
(やばい。)
最近、本能的にそう思う瞬間が何度かある。頭のどこかが危険、と警告音を発しているのだ。
(俺はいつか、この黒に飲み込まれるかもしれない)
漠然と、そんな気がしている。
「ヒバリの髪ってさ、黒くてキラキラしてて、綺麗だよなぁ」
「ついに頭に虫でも湧いた?」
間髪入れず、冷静な返答。
「ハハ、言うと思った」
反論はしない。言い返すだけ無駄な相手なのは知っているし、そして何より今は身体の疲労がピークに達している。言い返す気力がない。
それは彼も同じなのだろう。気付けば2人でボーッと夕陽を眺めていた。
「それを言うならさ」
ふいに、彼が口を開く。
「ん? 何だ?」
隣を見ると、しっかりと目が合った。
「……だからそれを言うなら」
ゆっくりと、自分の髪に手が伸びてくる。
触れるか、触れないかの所。
「あなたの方がキラキラしていて」
自分でも、身体が固まるのが分かる。
鼓動が、早い。
「……うっとおしい」
そう言って、軽くはたかれた。
ポカン。
その時の自分は、ひどく変な顔をしていたのだと思う。
「何? どうかしたの?」
珍しく気遣う風な彼は、でも相変わらず無表情に見つめ返して来る。
もちろん、その夕陽をはじく漆黒の瞳で。
気付けば、思わず吹き出していた。
キケン、危険。
頭の隅でチカチカと点滅している。
なんてったって、相手はまだほんの子供なのだ。
−でも、その色がひどく誘惑的に見えるのも事実で−
「ひどいな」
何とか、そう一言だけ返して、また笑い続ける。
実はもう、手遅れなのかもしれない。
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