「人と国境と光と」FE セリマナ


 グランベル人なんて、大嫌いだった。
 イザークの人達を家畜のように扱い、ひどい税を課して何もかも搾り取っていく。
 グランベル人なんて、いなくなってしまえばいいと思っていた。

「大丈夫?」
 転んで、どうやら足を挫いたようだ。痛くて動かすことができず途方に暮れていると、誰かから声をかけられた。
 蒼い髪を後ろで束ねた、可愛らしい顔をした男の子。イザークの民ではない容貌を有する彼に、私は嫌悪を露わにする。
「僕、すぐそこに住んでいるんだ。動けそうにないなら、おぶってあげるよ」
「……近寄らないで」
 差し伸べられた手を払い、当惑した顔の少年を睨む。
「グランベル人なんか、信用できない。私を本国に、奴隷として売るつもりなんでしょう? 母さんが言っていたもの。グランベル人なんて、みんなひとでなしだって!」
「ひとでなしか」
 少年はその言葉を反芻すると、少し唇の端を持ち上げた。そして次の瞬間、まったく躊躇わずに私を背に載せる。
「や……降ろして!」
「怖がらなくても大丈夫だよ、君を売ったりしない。僕は大罪人の息子だから」
「え?」
「シグルドって知ってる? 僕の父さんなんだ。皇家に対する謀反で処刑されたのに、どういうわけか英雄化されているひと」
「……じゃあ、あなたがセリス様?」
「うん、そう」
 さっと、全身の血が落ちる感覚を味わう。きっと顔面は蒼白になっているだろう。あれだけ痛かった足も、すっかり気にならない。
 セリス様は、いずれ正統な王位継承者として、帝国の圧政から私達を救って下さるお方なのに。
「も、申し訳ありません! ご無礼を……」
「ううん。僕の出自はグランベルだし、きみの言ったことは間違っていないよ。確かに、グランベルの役人はこの国の人達にひどいことをしている……でも、」
 そして、ふと空を見上げて言った。
「僕が大人になったら、こんな世界変えてみせる。必ず」
 セリス様は光の皇子だと。
 そう言われる理由が、わかった気がした。
 この方は全ての人を安寧へ、そして全ての国を平和へと導くのだと。
「あー、セリス! 何処行ってたのよ!」
「ラクチェ、この子怪我してるんだ。エーディンを呼んできて」
 イザーク王女のラクチェ様が、走って教会へと向かっている。
 セリス様は、私を降ろして切り株に座らせてくれた。
「ところできみ、名前は?」
「申し遅れました、マナと申します」
「いい名前だね。よろしく、マナ」
 セリス様の笑顔は、太陽のように明るかった。






「家族」FE シアルフィ一家


「兄上、朝ごはんですよ! さっさと起きて下さい!」
「うーん……あと10分……」
「アーダン、上に乗っかりなさい」
「待った! 起きる起きる起きたからそれは勘弁してくれ!」
 蒼い髪を寝癖でくしゃくしゃにした兄は、重兵士であるアーダンを前に飛び起きる。
「父上、洗濯物またためているでしょ? 早く出して下さい!」
「あ、あぁ……ちょっと待ってくれ。この書類が終わってから……」
「ノイッシュ、父上の部屋から洗濯物を撤去しなさい」
「承知致しました……ってバイロン様! なんですかこの散らかり様は!」
 仕事に没頭すると他の何も構えなくなる父は、潔癖症のノイッシュに任せておけばいい。
「エスリン様、今日もお疲れ様でした」
「全くだわ。アレク、今日は城の掃除をするから、用具の確認をお願いね」
「了解です」
 何でもそつなくこなすアレクは、細々とした雑用を任せるのに向いている。
 その指揮をするのは、今のところ全て自分なのだ。
「あーあ。こんなんじゃ私、まだまだお嫁に行けないなぁ」
 そうは言っても、この生活は楽しくて仕方ない。文句を言いながらも、頬が緩んでいるのが自分でも分かる。
「兄上がしっかり者の奥さんを貰ってから、ゆっくり考えよう」
 そう言った数日後、レンスター王子から婚姻の申し出が来たと聞き、エスリンは喜ぶ間もなく血相を変えて父と兄に家事を教えたのだった。






「炎」FE シグディア(アルディア)


 全ての記憶を思い出してから、ディアドラの精神は壊れてしまった。
 日がな窓辺から空を見上げ、何か呟きながら泣いている。
 アルヴィスは夫として傍に居ながら、けれど妻がこうなってしまった原因は自分にあるので、言葉をかけられないでいた。
「アルヴィス様」
 何年かぶりに、ディアドラが自分の名を呼ぶ。
 それだけで嬉しくて相好を崩したが、次の言葉がアルヴィスの頬を強張らせる。
「私が死ぬ時は、あの神の炎で焼いて下さいね」
 あぁと嘆息し、両手で顔を覆う。
 どうして、と口をついて出た言葉に、ディアドラは心底幸福そうに微笑んだ。
「愛するひとと同じ死に方をしたい」
「愛するひとの手で死にたい」
「両方叶えられるなんて、私、とても幸せです」

「あぁなんて、幸せ」

 窓から見える空を、鶫が一羽横切った。






「うそつき」BLEACH ギン乱


「乱菊、なぁ乱菊ぅ」
「松本とお呼び下さい、市丸隊長」
「んじゃ、松本副隊長さん」
 いつもはどれだけ言っても名で呼ぶくせに、今日はあっさり引き下がった。
 何か企んでいるのではないだろうかと、訝しげな視線を向ける。
 相変わらず感情の読めない笑顔をさらに軋ませ、市丸は言った。

「ボクなぁ、きみのこと大好きやねん」

 瞬時、脳がかき乱されるような眩暈が起こる。冷や汗が流れ、そして手が震え出す。
 その言葉が何より欲しかった時には、絶対に言ってくれなかったくせに。
「アンタね……」
「ん?」
「一回死んできなさいよぉっ!」
 頬をめがけて平手を振り下ろす。避けようと思えば簡単に避けられるはずなのに、彼は笑ったまま左頬に平手を受けた。
「あァ、良かったわぁ」
「何が……よ」
 打った右手がじんじんと痛い。市丸はそっとその手を取り、握りしめる。
「まだきみが、ボクのことちょっとは大事に思ってくれとるって分かるから」
「……似合わないセリフ吐くんじゃないわよ」
 こいつを嫌いになれたらどれだけ楽だろうか。
 彼に預けた右手は、懐かしい温もりに震えていた。






「ずっと一緒」BLEACH 日雛


「日番谷くん」
 陽だまりの中、部屋の畳に座した雛森。
 傍らには、ごろりと寝転がっている幼馴染み。
 昔からよくしていたように、銀色にひかる髪を撫で梳いてやる。
「ずっと、一緒に居られるといいね」
「あ?」
「死ぬまで……死んで現世に生まれても、一緒に居られるといいね」
「なんだよいきなり」
「別に、何ってわけじゃないんだけどね」
 幼馴染みの頭から手を離し、雛森は微笑む。
「ただ、誰かとずっと一緒に居られるなら、誰がいいかなって」
「……何でまたそんなこと考えたんだよ」
「だから、別に理由なんか無いんだってば」
 時折、幼馴染みのこういう所がよく分からないと日番谷は思う。
 彼からすればどうでもいいようなことを口に出したり考えたり。
 時間の無駄だと思わないでもないが、その無駄が彼は嫌いではなかった。
「心配しなくても、一緒に居てやるよ」
「本当? とか言って可愛い彼女とかできたらいなくなるんじゃない?」
 笑顔で無神経な言葉を吐く鈍感さに、日番谷はこめかみを抑えた。
「そっちこそ、彼氏ができたからもういらないとか言うなよ」
「あはは、それはないよ」
 雛森はごろりと寝転がり、日番谷の額に額を寄せる。
「私は世界中の全てより、シロちゃんのことが大事だから」
「……大層な口説き文句だな」
 言葉ではあくまで平静な振りをしたが、頬が熱くなっていくのはどうしようもなかった。