昼下がりの、白皙の美少年。
中庭で脚を組んで寛ぐ姿は、そんな言葉がぴったり。穏やかな日差しを浴びた肌は、うっすらと細やかな血管を映し出す程に、白い。
(……黙ってれば、ね)
本当の彼はピリリと辛い、じゃ済まされない。
スパイスなんてやわなものじゃない、言うなれば、
(……猛毒だな……)
毒と分かりつつ、近づいてしまう。自分の馬鹿さ加減に呆れながらも、身体の方は非常に素直だ。
「リボーン」
中庭で見かけた彼の名前を呼びながら、自然と足はそちらへ向いている。
1、2、3。彼の側まで、あと1歩。
……チャキ。
自分の腹部に違和感を感じ下を向くと、彼の伸ばされた手には、愛用の小銃。
向けられた銃口は、自分の左腹。
「おおお俺まだ何もしてないよね!?」
「何の用だ、アホ牛」
まだ声変わりの始まっていない、メゾソプラノの声。
心地よいはずなのに、その台詞にすでに泣きそうになる。
「ひどいなぁ……」
そろっと銃口を避けながら、こちらをちらとも見ない相手の、向かい側の椅子に腰掛ける。
「……用があるなら、早く言え」
相変わらず、視線を上げることはない。
(……睫毛、長いなぁ……)
彼の頬に、影を落としているそれに見とれていると、
ジロリ。
睨まれた。完全に、蛇に睨まれたネズミ状態。
「あ……えぇっと、今日はリボーンの誕生日だね」
「……そうだな」
「でもって、明日はボンゴレ10代目の誕生日」
「……あぁ……」
彼の目は、忙しなく手元の書類の上を動いている。
その様子を見つめながら、頬杖をつく。
「……10代目、何をあげたら喜んでくれるかな……」
「お前のものなら、何でも喜ぶだろう、奴は」
ボンゴレボスを、奴呼ばわり。これも、彼だから許される特権だ。
「……リボーンの誕生日パーティーはないの?」
「必要ないだろう。ヒマならお前も明日の手伝いをしろ」
アホでも力仕事ぐらいはできるだろう、と嘲笑う。
「必要なくなんか……、」
ないよ。だって、貴方が生まれた日なんだから。
でも、今はその言葉を口に出すことはしない。
何事にも、タイミングは大切だ。
「リボーン」
「……なんだ?」
放っておけば書類に集中しそうな目の前の相手に、慌てて話し掛ける。
「……あの、さ」
ガサゴソ。
先程からずっと持っていた包みを開ける。
トン。
彼の前に置かれたのは、深紅のワイン。巷ではなかなか手に入らない、年代物だ
。
やっと彼が、ゆっくりと、視線を上げる。
「……誕生日おめでとう、リボーン」
何だかとても、照れくさい。
彼は目の前の真っ赤なボトルを、じっと見つめる。漆黒の瞳にチラチラと赤い光が映って、非常に妖艶だ。
「……お前にしちゃあ、気の利いた物を持って来たな」
クスリ、と少し愉快そうに笑う。
彼の見た目には、決して相応しくない代物。
けれどもこの日のために、彼のために、苦労して手に入れた自信作だ。
「……気に入ってもらえて良かったよ」
(―…さぁ、ランボ。)
今が、チャンスだ。
右よし、左よし。
周りには誰も、いない。
しっかり前を向いて、
勇気を出して、
大きな声で、
(おめでとうって、好きだよって、自分の気持ちを、伝えろ……!)
「リ、リボーンっ!!」
彼はその大きな声に、少しだけ目を見開く。
「そ、その……」
……生まれて来てくれて、ありがとう。
君に会えたことは、僕の人生で一番の宝物だよ……。
そこで何とか、一息つく。
(……あぁぁ何恥ずかしいこと言っちゃってるんだ、俺……しかも、愛の囁きと言うよりは、口説き文句……あまりに幼稚かも。)
ツッコミどころは満載。
でも、本当にそう思ってるんだ。
クサくても幼稚でも何でも、これが今の俺の、素直な気持ち。
……チラッと、少しだけ彼の表情を窺ってみる。
ポカン。
形容するなら、そんな感じ。
でもなぜかその瞬間、笑いながら「何言ってんだ、死ね」とぶっ放される自分を想像してしまった。
(……やばい、殺される……)
「リボーンさん、ここにいましたか」
突然、遠くの廊下から彼を呼ぶ声。
振り返ると、ボンゴレボスの忠実な右腕が、そこに立っている。
「明日のパーティーのことで、ちょっとご相談が」
「……分かった、すぐ行く」
かろうじて命は助かった。でも、まだ自分の目尻には涙が滲んでいる。
(色々と失敗しちゃったかな、俺……)
静かに立ち上がった彼は、視線も合わせずに、うなだれた俺の横を通り過ぎる。
すると彼が、そっと、囁いた。
―"Stasera associandosi"―
(―え?)
振り向いた時には、彼は遠く、後ろ姿。
(……あれれ、リボーン、)
耳が、真っ赤。
その様子が歳相応、といった感じでとても可愛いくて、先程のへこんだ気持ちは、どこへやら。
まだ涙は消えないけど、顔が綻ぶのが、自分でも分かる。
―毒は毒でも、君は時に俺を、誰よりも幸せな気持ちにしてくれる。―
(期待しちゃっても、いいのかな……)
歩き出した自分の足取りも、とても軽やか。
―"今夜、付き合えよ、"―
(あぁ、もちろん、俺で良ければ喜んで。)
誕生日おめでとう、僕の可愛いBambino。
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