「放っとけばいいのに」
この科白はよくスティングに言う。
あいつはぼんやりしているステラをよく構ってやる。全くお人好しだ。
ステラは邪魔。て言うか面倒なやつ。
戦闘の時には使えるけど、普段はふらふらして危なっかしくて、昔から僕やスティングが面倒みてやらなきゃ何もできない。
まぁ僕には関係無い。ステラのお守りなんかスティングに任せておいたらいい。
と、思っていたのに。
まさか僕が自分にこの科白を使うことがあるなんて。
海色ヘルパー
一人の男を踏み台にして高く跳躍し、ステラに絡んでいる方の男の背後を取って素早く銃を突きつける。
「やめときなよぉ〜僕ら、第81独立機動軍所属でさぁ?」
「ファ、ファントムペイン!?」
「ぼーっとしてっけどさ、そいつもキレっとマジ怖いよぉ?」
強化人間の所属する部隊は、やはり相当恐れられているらしい。そいつらは慌てて去って行った。
さて、当のステラはというと。
まるで何事もなかったかのように海を見続けている。周りに無関心なのは結構だが、言い寄る男どもをかわすくらいの知恵は身に付けて欲しいものだ。
「ステラ」
名前を呼ぶと、くるりと振り返る。金髪が頬のところで柔らかく風になびいた。相変わらず間抜けな顔だ。
「アウル……あのひとたち、は?」
「とっくに追い払ったよ」
「そう、ありがとう」
それだけ言うと、ステラはまた海の方に向き直る。僕はというと、礼を言われるなどとは思っていなかったから少々困惑してしまった。
「何、お前が礼言うなんて珍しいじゃん?」
「あのひとたち、ステラが海見るの、邪魔しようとしたから」
「ふーん、そんなに海好きなの?」
僕がそう訊くと、ステラはまた僕の方を振り返り、うん、と頷いて笑った。
まぁ、綺麗なのはわかるけれど、ステラのように何時間も見続けるほどではないと思う。何も面白いものなどないし、飽きもせず海を見ていられるステラの神経が理解不能だ。
「何処がいいのかわかんないねぇ」
そう言いながら、僕はステラの隣に腰をおろす。面白いものではないけれど、たまに眺める分には悪くない。ジョーンズの甲板から見る海は水平線まで見渡せるし、潮の香りもして気分のいい場所である。
「海、きれい。ステラ、海好き」
「はいはい、知ってるよ」
伊達にガキの頃からの付き合いではない。お互いの好きなもの、嫌いなもの、他人が知らないような癖までスティングを含めた僕達三人は熟知している。
「でもさ、気をつけろよ?」
「え?」
「海に落ちないように気をつけろって言ってんの。お前泳げないんだからな」
ほにゃっとした頬を軽く抓ると、ステラはにっこりと笑みを浮かべる。
「だいじょうぶ。ステラが落ちたら、アウル、助けてくれるから」
「…………はぁぁ?」
一瞬、思考が真っ白になった。なんでそうなる? こいつ何考えてんだ?
「何言ってんだよ、僕はお前のことなんて助けたりしないからな! そういう役目はスティングに頼めよ!」
怒鳴りつけたらいつものように項垂れて黙ると思ったが、今回ばかりはきょとんと僕を見返してくる。大きなすみれ色の瞳にじっと見つめられると、それだけで心拍数が上がってくる。
「どうして? アウルはいつも、ステラのこと助けてくれるのに」
「バカなこと言うなよ! 僕がいつお前を助けたって……」
「さっきとか」
「ぐっ……」
畜生、と心の中で悪態をつく。気まぐれに行動なんてするもんじゃないな。
「さっきのは特別だ! もうお前のことなんて助けてやんねーよっ!」
「……」
僕は怒鳴ってばかりいるのに、ステラは表情を崩さない。なんだかイライラしてきた。そういえば、研究所に居た頃は今よりずっとよく泣いていたから、僕は面白がってよくこいつを泣かせていたのに、不思議と僕を嫌わなかったことを思い出した。
「そんなの、嘘」
「はぁ?」
「アウルはステラのこと、いつも助けてくれてるの。ちゃんと、ステラ知ってるの」
かっと、顔が熱くなる。
畜生、ステラのやつ。普段ぼんやりしてるくせに、何でそんなこと知ってるんだよ。
スティングに任せておけばいいなんて幾度思ったって、やっぱり僕はステラのことが気になる。大事な、たった三人しかいない仲間だから。昔からずっと、お互い背中を預けて生き残ってきたんだから。
「アウル、顔赤いよ?」
「うぅうるさいっ! ほら、さっさと行くぞ、ネオがお呼びだからな!」
ネオ、と名前を出すと、途端にステラの表情が明るくなる。
「えっ……うんっ!」
また戦争が始まる。戦場は、僕らの存在意義がある場所。
そこでステラが危ない目にあったりしたら、悔しいけれど、やっぱり自分は彼女を助けてやるのだろう。スティングは心配ないけれど、ステラはまだまだ危なっかしい。
あーあ。放っておけばいいなんて、放っておけない僕が言うもんじゃないな。
「だって僕はさ、お前達以外大事なものなんてないんだよ」
「え? 何、アウル」
後ろをついてきたステラが、ひょいと僕の顔を覗きこむ。いつもぼんやりしているくせに、こんな時だけこいつが耳聡くなるように感じるのは、気の所為だろうか。
「何でもない、早く行こうぜ! 今日は何機落とせっかなー。ステラ、競争するか?」
「うんっ!」
元気に頷くステラの手をひいて、遅いぞと文句を言うスティングに笑いかけた。
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スティングは鈍いけど世話焼き。
アウルは意地悪だけど優しい。
ステラは鋭いけど馬鹿。
という設定なファントムペイン(笑)