「弁慶、おかわり」
真っ直ぐに自分に伸ばされた手。そして、空っぽのお茶碗。
「沙那王、それ何杯目? あんまり食べると、ぶたさんになっちゃうよ」
「うるせー」
そう吐き捨てると、取り付かれたようによそわれた白米を掻き込む。
(……完全に、やけ食いだな)
「あとで気持ち悪くなっても知らないからな」
何だか知らないが、怒っている。でも彼の怒りの火種はいつも決まっているので、おおよその検討はつく。
彼の、兄上。源頼朝。
非の打ち所のない、彼にとって唯一無二の存在。
おそらく兄上の悪口を聞いたか、あるいは兄上と自分の血の繋がりを疑われたか。
(……相手にしなきゃいいのに)
いつもそう思って仕方ないのだが、何せ彼は超ド級の直情型。泣いたり怒ったり笑ったり、色々と忙しい。
相変わらず白米と格闘している相手をじっと見つめてみる。
少女のように麗しい顔立ち。
流れるような漆黒の髪、瞳は夜の帷色。
乱暴な口調が、玉にキズ。
確かに、似ていない。上品な洋菓子のような彼の兄上とは、似ても似つかない。
(……でも、俺は)
沙那王、俺はね。
「頼朝様のことで、何か言われた?」
何気なく問い質してみる。彼の箸が、ピタリと止まった。
「……ちがう、」
右頬に御飯粒を付けながら、ムスッと呟く。
「じゃあ何そんなに怒ってんの?」
「怒ってねー」
「怒ってるよ」
さあ、弁慶に話してみな。
顔をぐっと、近づける。
こうなると聞き出すまで頑として引かないことは、相手もよく分かっている。
彼は降参したように、俯いた。
「………た、」
「……は?」
「……弁慶の、悪口言われた」
どこぞの生まれとも分からないキツネが女房役とは、義経様も人がよろしい。そう言われたらしい。
何秒ぐらいそうしていたかは分からないけれど、おそらく呆気にとられていた俺は、そのあとで小さく吹き出した。
「何笑ってんだよ、弁慶!」
お前のこと悪く言われたんだぞ、黙ってられるか、そう言って彼はまた頬を上気させて怒っている。
「だってそれは……、馬鹿だな沙那王、」
可笑しくてたまらない。
それは沙那王、お前が悪く言われたんだよ。
「誰が馬鹿だー!」
また怒っている。もう、我慢できない。俺は大声で笑った。
あぁ、俺は、何て幸せ者だろう。
一生をかけても大切にしたい相手を、見つける事ができたなんて。
止まる事のない目尻の涙を拭いながら、もう片方で彼の頬についたおかずをとってやる。
「ほんと可愛いなぁ、沙那王は」
「はぁぁ!? 何だそれ!」
俺はまだ怒ってるんだぞ! そういってまた御飯を掻き込み始める。
(怒ることがたくさんあって、沙那王は大変だ)
そう思うとまた、笑いが込み上げてくる。
沙那王、俺はね。
お前ほど綺麗な人を、見た事がないよ。
真っ直ぐで眩しくて、とても愛しい。
「弁慶は沙那王に愛されてるんだなー満足満足」
「ばっっ何言ってんだ!」
どうかこの命尽きるまで、君の側にいれますように。
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