こんにちはお嬢さん。勝浦じゃ見かけない顔だね。
 何処から来たんだい、家族も一緒?
 ……ふふ、そんな顔をしなくても、言いたくなければ言わないで構わないさ。
 あんたのような年端もいかない子が、こんな薬を調合できるとは思わなくてね。つい立ち入った口をきいてしまったよ。
 ところで、この薬草は初めて見るね。何に効く薬だい?
 あぁいいよ。名なんてどうせ覚えられやしない。効能だけ教えておくれ。
 ……へぇ、そうかい。じゃあひとつ頂こうか。
 は? 馬鹿言うんじゃないよ。私はまだ十二なんだ。腰の病なんてあるはずないだろう。
 ……あはは、そうかい。そりゃ、あんたのあにさまも気の毒にね。あの病は辛いと方々から聞くよ。大事にしてやりな。
 え? ふぅん、そう。そりゃ難儀だね。じゃああんたは独りなのかい。
 お偉方には事情もあるんだろうけれど、何もこんな小さいあんたを放り出さなくてもいいものなのに。
 おや、顔色が変わった。ふふ、ませているようでもやっぱり子どもだね。私を騙そうとするんなら、もっとしっかり演技をするもんだよ。
 お節介ながら教えてやろうか。喩えばその手。それから着物。言葉遣いも少しね。
 いくら汚れているように見せかけたって、それは長年染み付いたものじゃない。庶民だと言い張るなら、手荒れのひとつも作ってからにおし。
 ついでだから訊かせて貰うけれど、あんたが女子の恰好をしているのもお家の事情かい?
 可愛らしい顔で笑っても誤魔化されないよ。これでも目利きには自信があってね。
 ……おっと、そんな物騒なものを出すんじゃない。先に言っただろう、詮索されたくなければ言わないで構わないのさ。
 ただ、あんたは此処には矢鱈に不釣合いだよ。隠したって分かる。
 何の理由があろうと知ったことじゃないけれど、自分が目立つってことだけは気に留めておきな。
 それが言いたかっただけだ、警戒なんてしなくていい。私が何か知ったところで、増してやあんたが私を殺したところで、何にもなりはしないよ。
 はい、お代。これが効くようなら、また買いに来させて貰うかもね。
 うん? ……あぁ、構わないけれど。私の名が聞きたいなら、まず名乗ってみせな。
 ……そう。ケイ、というんだね。
 私は、玉虫。
 しがない声聞師だよ。

前頁← →次頁


戻る